日本からマウイに引っ越してきた初日のこと、賃貸契約をしておいたコテージにはすでに先住民がおり、私たちはいきなりムカデの洗礼を受けました。洗礼といっても、実は私自身は目撃してさえいないのですが、マウイに来て覚えた初めての記念すべき英単語はCentipede (センタピー)= ムカデでした。
奥のベッドルームへ窓を開けに行った私の主人が顔面蒼白になってリビングルームに戻ってきました。”窓のサッシにムカデがいる。。。。” 私は生まれてこのかたムカデを見たことはありませんでしたが、刺されると有害だということをなんとなく知っていたので、”追い払った???” と聞くと、”気持ち悪くてもう見たくない”となんとも情けない主人の返答。 ”そんなこと言ったってどうするのヨ!”と詰め寄ったものの、主人はその件については完全に全面降伏状態となっており、かく言う私はもっとずるく、見に行こうとさえしませんでした。引っ越してきたばかりで殺虫剤も、追い払う道具もないし、見に行ったところで何もできないしという言い訳のもと、有害か無害かを確かめる為にも、とりあえず家主にさっそく連絡。ムカデなんていう単語など知るわけなく(そんな単語今まで必要なかったし)、”It has thousands of legs.(足がたくさんある虫です)"とかなんとか言って説明すると、"Oh, that is centipede ! Do not touch it."と言うわけで、忘れもしない最初に覚えた英単語となったわけです。
このコテージは、ジャングルのような緑に囲まれた小さな家、私はそれまでこんなに木と土の多いところには住んだことがありませんでした。しかもこの家、しばらく人が住んでおらず防虫駆除もしていなかったようで、その後も各種先住民からの洗礼は続き、蟻が家の中を行進しているのなんてかわいいもので、大きくてつやのいいゴキブリが空中を飛んでいたり、身体の部分が3センチ位ある巨大なクモまで撃退しなければならず、夢にまで見たマウイライフは、実は野生の王国ライフでした。
その後何度か引っ越しをしましたが、当たり前のことながらどこへ行っても緑の多い農業地区と自然の先住民は強力なパートナーシップを結んでおり、それまで日本では2回位しかゴキブリに遭遇したことのなかった私にも免疫ができ、今ではゴキブリなんてなんのその、ムカデの瞬時撃退法を習得したのはマウイにきて大きな収穫(?)のひとつです。
さて前置きが長くなりましたが(実はここからが本題)、今住んでいるところはニワトリ王国です。野生のニワトリが自由奔放にあちこちと人の家の庭を横断し、好き勝手に繁殖しています。 この家を見にきた時、家のすぐ傍で雄鶏が甲高い声で泣き(日本語だとコケコッコー。英語だとCock a Doodle Doo。どちらが本物に近いでしょう??)”ちょっと、これ早朝に耳元で泣かれたらどうなるの???”とは思いましたが、マウイではワガママを言っているといつまでたっても住む家など見つかりませんので、住むことにしたわけです。 慣れというのはおそろしいというかすばらしいもので、今では明け方に耳元で泣かれても飛び起きなくなったし、うるさいとさえ感じなくなりました。たまにちょっと静かに!と思う時は、昼間電話をしている時。仕事の電話がほとんどなので、電話の相手(特にホノルルのオフィス街にいる相手)から、"Is that chicken ???"と言われた時は、”私はいますごい田舎にいるの。あなたのいるワイキキにニワトリは歩いてないよね〜”と言ってお互い笑います。
野生ニワトリの繁殖力はものすごく、10個位の卵を10日間位、雌鳥は飲まず食わずでじっと座ってあたため、一度にヒヨコが生まれます。私の家の下(高床式の家の下です)の、バケツの影で来る日も来る日もじっと卵をあたためているニワトリを発見したときは、何日位で卵がかえるのかという私の疑問の答えを得るべく、毎日そこに居ることをそっと確認していましたが、来る日も来る日もあまりにもじっと動かないので、水や食べ物(?)の差し入れをしたほうがよいのではないかと真剣に考えたものでした。
そうして生まれたヒヨコはママ鳥を先頭に隊列を組み、あちこち自由奔放に近所の家を行き来しています。今まで目撃した子だくさん最高記録は13匹、その時は何度も数えてしまいました。 ヒヨコは日に日に目に見えるように大きくなっていくのですが、特に生まれてまもない最初の頃は数も減っていくのです。ほとんどは近所の猫やネズミや鳥のエサになっているようで、可愛そうなことに明らかに攻撃されたと思われる状態で死んでいるヒヨコを見るのもめずらしくはありません。なので、ママ鳥にくっついて歩くヒヨコの数を数えては昨日と同じ数だと、あ〜よかったね、元気で!という気持ちになります。
さて、このニワトリ王国にある私の家では、かつてあんなに撃退に追われたムカデをこの2年半一度も見ていません。家の中にムカデが侵入していないとしても、普通は庭の落ち葉の下や雑草を掘り起こすとほとんど必ずいるはずなのに、居ないのです。どうやらこのニワトリ王国では、自然のバランスでムカデは生息できないのでは? というのが不確かながらの私の考察。 そうだとしたら、ムカデ戦争から開放されたこんなに平和な生活を送れるのはすべてニワトリのおかげと思うと、なんだかありがたいかも。
1年に1度のマウイのお祭り、マウイカウンティフェアのイベントステージで、マウイの女子高校生が学校対抗で、どの学校代表が一番ニワトリのマネが上手いかという、しょうもないけどすごく笑えるイベントをしていました。
その翌日、家の真ん前の道路のど真ん中でニワトリ約8羽が立ち止まっており、私の車が接近していってもまったく動かず、手前50センチのところでブレーキをかけたら、やっと気づいてびっくりして逃げて行きました。
”あんなに集まっちゃって、何話してたんだろーねー?”と息子に問いかけると、”They are complaining about yesterday, Do not copy us! (俺たちの物マネ勝手にするなっ!って言ってたんだよ、きっと。)" という答えが返ってきました。
野生ながらも毎日見ていると、一緒に生きている家族のようにさえ思えてきてしまいます。 どうせ私たちも人間という種類の動物だし、ニワトリ王国に住むのも快適快適。
(補足:旅行でこられる方々が滞在されるような宿泊施設は、歓迎できない虫だらけの虫王国ではありませんので、ご安心ください。)
by Yoko, October 2007
家の道路の前を横切る野生にわとり親子
家の下に産みおとされた卵は殻が固くツルツルです。