2008年11月5日、アメリカ大統領選、
ハワイ出身のオバマ大統領がハワイ州で約73%の票を獲得した瞬間、ハワイの人はこう言いました。
”ハワイにとって、アメリカにとって最高の日だ。世界は今アロハスピリットを切実に必要としている。”
(11/5のコラムより:"This is the great day for Hawaii, a great day for the country", said U.S. Sen. Daniel Akaka.  "The world really needs the spirit of aloha.")

 
アロハスピリットという言葉は、ハワイに関心がある人は誰でも聞き慣れているハワイを象徴する言葉ですが、具体的にどういうことをアロハスピリットというのでしょう。
”人に親切にすること” かな〜となんとなく私は理解していました。

 
オバマ大統領が、ある記者のインタビューにこのように答えています。
記者の質問は、”ハワイというと誰もがパラダイスだと想像する場所ですが、ハワイで育ったことによりそこで得たものは何ですか?”

 
オバマ大統領の答えは、”自分の周りに居る人には気を配り、お互いに親切に感謝の気持ちで関わりあうこと、そしてハワイに住んでいて最も重要なことは、人の見かけや外見は、その人の中身や人種や権力を表すものではないということを得ました” というものでした。 

さらにオバマ大統領はその意味の説明を続けます。
”アロハスピリットの精神に通ずるということを説明したいのですが、私たちは皆ひとりひとり孤独なのではなく、皆お互いに助け合って生きて行く義務があるということです。 誰かが困っていれば助けるということです。 例えば、子供たちにとっての最良の学校がなければ学校をつくる、すべてのお年寄りが快適に不自由なく暮らすことができる環境をつくる、というようなことが、お互いに気を配りあい、助け合って生きていくということです。 黒人も白人も、日系アメリカ人も韓国系アメリカ人もフィリピン系アメリカ人も、みんな同じアメリカ人であり、すべての多様な能力をもちよってアメリカをよりよい国にするために共に働くのです。”

 
ハワイは、もともとそこで生まれ育ったハワイアンに、移民である日系、韓国系、中国系、フィリピン系、サモア人、トンガ人、メキシコ人、ヨーロッパ系、南米系、そしてアメリカ本土からの白人や黒人 と 多種多様の人種のるつぼであり、多数派で権力をもっている特定の人種はなく、すべての人種がマイノリティー(少数派)です。だから、すべての人と仲良くしなければならない環境です。

 
この人種のるつぼである環境は小さなマウイ島では大変わかりやすく、特に私の子供たちは3歳の時からプレスクールへ行き、5歳の時から地域のありとあらゆるスポーツチームにはいり、ダメ押しは限られた少人数のグループが行くプライベートスクール(私立学校)ではなく、”住んでいる人誰でも全員が行く”パブリックスクール(公立学校)に通っているものですから、そこにはいつでもどこでもすべての人種がいて、子供たちの中には”あいつは日本人、こいつはフィリピン人”というような ”人種”の概念は最初からまったくありません。 あともうひとつ、子供たちの中で、先輩後輩というような”年齢の違い”という概念もまったくありません。(先輩後輩という日本語は、英語に訳せません。先輩後輩という文化が存在しないので、それに該当する英単語は存在しないのです。このあたりのお話はまた後日補足します)

 
私が育った日本は単一民族の国であるがゆえに、違いや人のみかけで判断してしまうようなことが、私が小中学生だった頃からすでにありました。とてもわかりやすい例は”転校生”、他の県から引っ越してきたり、ヨーロッパ人と日本人のハーフで髪の毛が金髪に近い茶色だったり、帰国子女で英語がぺらぺらだったりするだけで、学年中の好奇心と注目の的でした。 髪型や服装が人とちょっと違ったりするだけでも、まずは校則というものにひっかかり、大人たちからはなにかを言われ、そして子供の世界でも年功序列(先輩、後輩の世界)があることなど、それこそ見かけや違いでお互いの壁をつくったり人を判断したりということが当たり前のことでした。 

 
自分の子供は”人種”の概念は全くなく誰とでも最初から仲良くしているのに、恥ずかしいことに親である私が”人種”や”違い”という概念に長い間とらわれていました。「金髪の白人」「色黒のアジア人はフィリピンかトンガか」「色黒で太り気味だからハワイアンか」「この子は年上?年下?」「小学生でパーマをかけた髪にピアス?」などなど。。。外国生活でよくありがちの ”日本人会” 的な安心して所属できるようなグループもないから自分で友達を見つけなければならないし、自分の子供がどういう子と友達になるのか検討もつかないし、でも不良グループにはいるのだけは阻止したいし、といういろいろな思惑のもと、無意識のうちに外見やみかけからの詮索作業にはいってしまうのです。 しかし、人種のるつぼ社会初心者の私は、外見からの詮索作業は、その人のことを知る手がかりの助けにはまったくならないことを子供たちの世界を見ていて悟りました。 
例えばわかりやすい例でいうと、野球のチームで、それぞれの選手の良いところや得意なプレイ、パフォーマンスや役割によるチームへの貢献度には、人種や外見はまったく関係ないのです。 各人そのものからでてくる能力や個性や人格が関係しているのです。
 
 
自分の子供がほかの子供に接する姿を見て、スポーツ活動や学校活動を通して、無意識のうちに外見から人を詮索する ” 色めがね” を10年位かかってやっとはずすことができたと思います。

 
東京に居たときは知らない人とは特別に必要がなければ会話もできませんでしたが、今は通りすがりの知らない人となんのためらいもなく会話ができるようになりました。 こちらでは、知らない人同士でも、たまたま目が会うと "Hi, how are you doing? やあ、元気?" といったような会話がよくあります。
日本からハワイへ観光で来る人も、おそらく田舎へ行けばいくほど、ローカルの人に話しかけられたり親切にされたりという経験もあるのではないかと思います。

 
他民族のよせ集めハワイでは、基本的に人々は誰でもウエルカム、この島のこの土地で同じ時間に生きている人間同士という理由だけで十分であるということがわかります。
これが私がハワイに住んでいて得たものですが、
これもまたオバマ大統領がハワイで得たというアロハスピリットの精神に通ずるものがあることに気づきます。

 
大統領任命式の直前、オバマ大統領は、自身の娘さんたちへ手紙を書いています。その手紙は新聞の冊子の特集で全国公表されたものです。
「若い頃自分は人生はすべて自分ひとりの為にあると思っていた。どうやって世界にはばたこうか、どうやって成功者になるか、どうやって自分の望むものを手にいれるかばかりを考えていた。しかし君たち2人がこの世に生まれてから、君たちの好奇心や悪戯や笑顔はいつでも私の心を満たし日々を明るくしてくれた。そうしたら突然自分の大きな野望はもはや重要でないことに気づいた。 君たちが喜び幸せである姿を見る事が、私の人生の最高の喜びであることに気づいた。 君たちがあらゆる可能性や機会に満たされ幸せになることが、私の人生の幸せであることに気づいた。 君たちだけでなくアメリカのすべての子供たちが幸せになって欲しい。アメリカのすべての子供たちにそれぞれの最大限の可能性に出会える学校へ行き、親の経済力には関わりなく大学へ行けるようにし、いい仕事に就き、家族と十分な時間を過ごす事ができる余裕をもった人生を送り、幸せに老後を迎えて欲しい。だから大統領に立候補しました。」
さらに手紙の中では、「この国の為に、各人の最高の能力と可能性を引き出すために、人間が勝手につくりあげてきた人種、地域、性別、宗教間の差別や境界を全力でとりはらいたい」とも言及しています。

 
”ハワイのことを知らないと、オバマ大統領がどういう人であるかということを理解することはできません” と、大統領夫人であるミセスミッシェルオバマがインタビュアーに言っています。


windy palmアロハスピリットの精神は、もしかしたら本当にアメリカに世界にチェンジ(変革)をもたらすのかもしれません。
少なくとも、私の人生と価値観には時間はかかったけど大きなチェンジをもたらしたのですから。 


記:
2009年1月21日 Maui News(新聞)に特集版
From Aloha State to Oval Office
アロハ州(=ハワイ州の通称)からホワイトハウスへ

 obama